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カナダde日本語

カナダで日本語を教えるdesperateな女教師のブログ。

2007.12.11 (Tue)

米国政治情勢:冷泉彰彦氏の「選挙というゲーム」から

ちょっと今、新しいテンプレの問題を追究しているところなので、問題が解決されるまで、表示速度が結構遅いのだが、昔の2カラムのテンプレを使っている。できれば、3カラムのテンプレを使いたいので、新しいテンプレがうまくいけば、又元に戻すつもり。

きっと、私がHTMLの編集をいろいろいじったりしていたので、それから問題が起こってしまったのだとおもう。

みなさまには、ご迷惑をおかけしております。

テンプレを直している間、週末に読んだ冷泉彰彦氏によるJMM海外レポートから、『from 911/USAレポート』第332回「選挙というゲーム」がとても面白かったのでここに一部転載させていただきたい。日米の選挙システムは全く違うけれども、こういった米国の選挙戦の詳しい様子を読むと、日本の選挙にもあてはまるところもあり面白い。

この村上龍氏によって編集されているJMMの中でも私は特に冷泉彰彦氏のコラムをいつも参考にさせていただいているが、米国政治の裏事情まで詳しく解説されているのにはただただ感心するばかりだ。JMMはこのように質の高い情報を提供してくれる他、読者のいろいろな質問に応えるコーナーなどもあり、海外の事情や米国の政治に興味のある人にはオススメのMLだ。JMMのMLを購読するための登録はこちらから。

「選挙というゲーム」

(前略)

民主党のヒラリーとオバマの泥仕合も、この構図と全く同じです。先週末あたりから、急にアイオワなどの世論調査でヒラリーが急落し、オバマが浮上というニュースが流れていますが、この「変化」も要するにオバマのヒラリーに対する「一貫性攻撃」が利いたということだと思います。そのきっかけは、10月30日にフィラデルフィアのドレクセル大学で行われたNBC主催のTV討論でした。このディベートは、各候補が一斉にヒラリー批判を行うという展開になっています。

ヒラリーは周囲から「右派だ」とか「ブッシュと変わらないではないか」という批判を受けながら、それには一切弁明はせず自分の政見を紹介しながら「問題は現政権の失政にあります」というブッシュ批判のタンカを何度も繰り返して乗り切っていました。ですが、共和党のディベート同様「不法移民対策」の問題ではやや立ち往生してしまったのです。

ヒラリーへの集中砲火があったのは、不法移民への運転免許証交付問題です。これは以前から色々と全国で議論がある問題なのですが、直近の例で言うと前回のNY州の知事選でスピッツァー知事は「不法移民をヤミの存在に追いやるよりも、免許証を与えた方が治安改善にプラス」という政策を公約として掲げて当選しています。ですが、実際にその法案を通そうとしたところ、州内外の世論から猛反発を食らったために、ギリギリのところで撤回しているのです。

NY州というのは上院議員としてのヒラリーの地盤であり、スピッツァー陣営の選挙運動に当たっては、ヒラリーは大きな存在感を示していました。ですから州知事選の時点ではヒラリーは「不法移民には運転免許証を与えるべきだ」としていたのです。ですが、その後、スピッツァー知事が撤回に追い込まれる過程を見ていたヒラリーは、今回のフィラデルフィアのディベートでは、立場を変えてきたのです。つまり、民主党の多くの候補が賛成する中で、この問題に関しては「自分は各州の判断に任せる」という言い方で、NY州の撤回という判断を支持し、間接的に「反対でも構わない」という立場を示したのです。

その際に、NBCの大変に有名なキャスター2人組、ナイトリーニュースの論説主幹ブライアン・ウィリアムスと、ワシントン総局長のティム・ラサートが一緒になってヒラリーに「それは前言を翻して公約を変えると言うことですか?」と迫ったのですが、ヒラリーは曖昧な言い方で逃げようとしたのです。その際の往生際が悪かったのが、その後ジワジワと利いてきたというのが正確なようです。

ディベート直後は「ヒラリーはライバルの総攻撃にあって、いつもの切れ味を欠いた」というような報道が多かったのですが、二週間経った時点でメディアはオバマ陣営の攻撃に同調するように「立場がコロコロ変わる」と批判を流し始めました。実はオバマをはじめとする民主党の候補達は、不法移民への免許証交付には賛成なのです。例えば、ビル・リチャードソン候補などは現職のニューメキシコ州の知事として「国境州の私たちとしては社会秩序維持の観点からすでに実施済み」だと胸を張っているのですが、そうした面々も共和党サイドの「不法移民に免許なんてとんでもない」という世論の風と一緒になって「ヒラリーには一貫性なし」というキャンペーンに乗ってきているのです。

ここに奇怪な情報があるのですが、MSNBCのタッカー・カールストンという政治評論家が言うには、ブッシュの補佐官だったカール・ローブが、オバマに「ヒラリー叩きのコツ」を伝授したというのです。ローブは「ニューズウィーク」誌に「来年の選挙でヒラリーを破るには?」というエッセイを書いているのですが、それはあくまで共和党の候補に対するもので「ヒラリーは恐ろしく一貫していて記憶力が良いから、過去の(リベラルに過ぎた)失敗をしつこく突けば、その批判を無視できなくなってボロを出す」というのがその方法だというのです。(内容は電子版による)話としては、その手法をオバマにアドバイスしたということなのでしょう。勿論、その
真偽のほどは分かりませんが、状況証拠としてはありそうな話に違いありません。というのは、宗教保守派の票をまとめてブッシュの選挙戦を勝利に導いたとされるローブには動機があるのです。

共和党の宗教保守派は、ここへ来てハッカビーという「タマ」を獲得したのです。これまでは、リベラルなジュリアーニが先頭を走るのを苦々しい思いで見つめながら、口先だけは保守的なことを言ってくれるロムニーを候補として担がなくてはいけない、そんな思いだったのでしょう。そこへ、泡沫と思われていたハッカビーが急浮上したのです。一気に彼等が選挙戦に対して「本気」になったとしても不思議ではありません。

もしもハッカビーが共和党の候補となっても、その先の本選挙にヒラリーが待ちかまえていれば、やはり手強いでしょう。ですが、仮にオバマが来て、「白人のプロテスタント」ハッカビーと、「黒人で父親はイスラム教徒」のオバマの対決となれば、ハッカビーに勝ち目が出てくる、ローブにはそういう計算があるのだと思います。私はそうした計算自体が、今の世の中、今の世代の有権者ということを考えると決して正しいとも思えないのですが、少なくとも宗教保守派の計算としてはそういうことを考えるというのは、かなりあると思います。

ここへ来て、政権内部から「イランは2003年時点で核開発を放棄していた」という秘密レポートの存在が明らかになってメディアは大騒ぎになっていますが、この謎めいた政権の動きも同じストーリーで説明ができます。ハッカビーは軍事外交に関しては「超保守」です。つまり、中東への関与自体を否定する、つまりアメリカとしては世界の「もめごと」に関わりたくないという姿勢を持っている、極めて孤立主義に近い人物です。

仮に世界の緊張が高まれば、アメリカは「強いリーダー」を欲するでしょう。それは共和党内では911の経験を持つジュリアーニであり、また民主党では「鉄の女」の風格を備えてきたヒラリーということになると思います。そして宗教保守派は、この二人に政権を取られることはどうしてもイヤなのです。彼等に政権を渡さないためには、これまでブッシュが求心力としてきた「危機」意識や、「戦時」意識はもはや邪魔になったとしてもおかしくありません。

実際にそのハッカビーは、火曜日にイランが非核化されていたというレポートが騒ぎになった後で、CNNヘッドラインのインタビューでは、そのレポートのことを「一体、何のことですか?」と言っていました。本当に関心がないのか、それとも演技なのかは分かりません。ですが、ハッカビーは危機管理能力を売り物にする候補でないことは確かであり、そうした候補には危機は不要だというわけです。

年の瀬を迎え、選挙というゲームは一気に熱を帯びてきました。その論点の善し悪しは別として、これまでの「ブッシュ対反ブッシュ」という枠組みの対立構図とは全く違う流れが出てきているのは確かでしょう。そんな中、5日の水曜日には、クリスマスのショッピングに賑わうネブラスカ州オマハのショッピングモールで、青春の苦悩に押しつぶされた若者が、8人の命を奪って自分も死ぬという惨劇が発生しました。

このロバート・ホーキンズという19才の若者に、報道されるような鬱屈や屈折があったとしても、それが9名の人命を破壊するというエネルギーにまで増幅されていたとはとても思えません。惨劇の相当の部分は、野放しの銃に問題があるのは明白です。ですが、それでも大統領選の選挙戦で銃規制は大きな問題にはならないでしょう。ジュリアーニはもうこの問題で共和党の多数派とケンカをする余裕はないようですし、ハッカビーに至っては自分が狩猟をするという人物です。民主党の側でも、ヒラリーのこれまでの言動からは熱心な規制論は聞こえてきていません。

ですが、仮に銃の問題を棚上げにして(それでは健全な議論にはならないのですが)狙撃犯の人物像に焦点を当ててみるとどうでしょう。家庭に捨てられ、高校を中退し、アルバイトも解雇され、恋人にも去られたというこの狙撃犯のような若者の心情に対して、仮にも真剣に向き合うような姿勢を持っているのは、実は宗教保守派なのです。彼等がどうして勢力を拡大しているのかというと、そのような家庭や社会からの疎外感に対するマーケティングに秀でているからなのです。ハッカビーの実に流暢なレトリックは、牧師時代のそうした草の根保守の傷ついた若者達との対話によって鍛えられた面もあるのだと思います。

7日朝のNBC「トゥデイ」には、この自殺した狙撃犯の友人2名が出演してインタビューに応じていました。自分たちにはまだ惨事が信じられないという二人は、しかし犯人が精神的に苦境にあったことを認めてはいました。ですが、司会のメレディス・ビエラが「犯人は(現代という世相の)犠牲者だと思いますか?」という質問に対して、友人の一人は「犠牲者という言葉は、このクリスマスを直前にして命を奪われた人々に対してしか使えないと思います。彼に関しては犠牲者という言葉は自分は使えません」と述べていました。

そのような良質な友人を持ちながら、その友人には本当の心の苦しさを語ることはできず、様々な苦悩を背負った挙げ句に暴発したホーキンズは、やはりどうしようもなく孤立していたのでしょう。友人達の「立派さ」を見るにつけ、私にはそれが胸に迫るように思いました。思えば911以降のブッシュ政権というのは、テロリストへの憎悪や恐怖といった草の根保守の心情を政権の求心力としてきました。実際にテロの被害にあったNYではなく、全く無関係なはずの中西部でイスラム系への攻撃が起きたり、アフガン戦争への志願兵が出たりしたのは記憶に新しいところです。

ですが、結局のところ戦争やナショナリズムでは中西部の草の根の孤立感は埋まらなかったのです。ハッカビー浮上の背景にあるのは、そうした心情だと思います。逆にロムニーが停滞しているのは、モルモン教という宗派そのものへの偏見というよりも、モルモンという信仰が「精神的敗者への救済」というよりも「人生の成功をつかむための修養術」、つまりどちらかといえば勝者と勝者たらんという人々の思想だということがあるように思います。

オバマ陣営が勢いづいたのにも、草の根の孤立感を取り込んだという似たような事情があります。社会的に(特に女性票に)大きな影響力を持っているTV司会者のオプラ・ウィンフリーがここへ来て「私の意中の候補はオバマ」と宣言し、オバマの選挙運動に同行し始めたのです。これは利きました。オプラという人は、黒人であると同時に人生の敗者に対して激励のエールを送るということで、アメリカのTVトークショーの女王にのし上がった人物です。

では、オプラのファンと、ハッカビーを支持する宗教保守派の違いはというと、オプラは北部にも影響力があること、非クリスチャンやリベラルな知識人層にも支持されていること、ぐらいでしょう。基本的にはグローバリズムに取り残された草の根の孤立感に対する処方箋と言いますか、マーケティングに優れているという点では、福音派とは似たような支持基盤を持っているのです。それは、ただひたすらに内向きということです。外国ではなく国内という意味での内向きであり、また精神的な内向ということでも内向きです。オバマという人はハッカビーとは逆に、軍事外交に関する政見は積極的に述べるのですが、そこにあるのは「悪しき介入への批判」がほとんどであって、いわばリベラル的な孤立主義の匂いがするのです。

では、オバマの勢いはヒラリーを倒すところまで行くのでしょうか。私はその可能性は薄いと思います。まずヒラリーはそうした「敗者への激励」であるとか、産業の衰退した地区への浸透ということでは、決してオバマには負けないからです。オバマとオプラを足しても、ヒラリーの弁舌や人心掌握力にはかなわないでしょう。また、ロムニーがここへきて宗教上の少数派ということで苦境に立ってきたように、オバマの場合も「本選で勝てる候補か?」という問いの中で改めて人種の問題がクローズアップされる可能性があります。

では、オバマがここまで善戦しているということは、ヒラリーのダメージになるのでしょうか? カール・ローブなどにはそんな計算もあるのかもしれませんが、政治というのはそう簡単な数学ではありません。アメリカ社会がオバマという異端児をこれだけ真剣に候補として考えているということは、民主党の党勢には好影響がある、そう見るべきだと思います。そのエネルギーは仮に最終の候補がヒラリーになったとしても、決して消えることはないでしょう。何よりも、21世紀流の理想主義のあり方を示したこと、若い世代の政治への関心を引き寄せたことは、政治的に大きな現象だと言えるからです。

それはともかく、最終的にヒラリーとハッカビーの対決ということになれば、お互いが現在の民主・共和両党の対立軸そのものを背負った存在として正面から対決することになるでしょう。対立軸が明確だということは、人格攻撃や一貫性チェックなどではなく、価値観そのものを選択する選挙ということになると思います。その論争が新たな分裂を招くのではなく、アメリカがその良い部分を自分で発見してゆくような健全な対立となってゆくならば、アメリカの二大政党制は新たな活力を得ることになるでしょう。

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冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家。ニュージャージー州在住。1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大
学大学院(修士)卒。著書に『9・11 あの日からアメリカ人の心はどう変わった
か』『メジャーリーグの愛され方』。訳書に『チャター』がある。
最新刊『「関係の空気」「場の空気」』(講談社現代新書)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
JMM [Japan Mail Media] No.456 Saturday Edition



上の転載した文章は、JMMの「from 911/USAレポート / 冷泉彰彦」に記載された時点でリンクに変更します。




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