2006.08.12 (Sat)
首相の靖国参拝 その2
靖国神社境内にある歴史博物館「遊就館」に今春以降、米要人からストレートな批判が続いた。
シーファー駐日米大使は7月12日、TBSテレビで「遊就館の歴史観には困惑している。小泉純一郎首相は遊就館ではなく、靖国神社を訪れているのだと何度も強調するが、私は遊就館の歴史観に納得しないし、間違っていると思う」と述べた。
同20日には、アーミテージ元米国務副長官が産経新聞紙上で「首相の参拝に問題がなくても、境内にある遊就館の一部展示の説明文は、米国人や中国人の感情を傷つける。日本の一般の歴史認識にも反する」と指摘した。
元防衛研究所戦史部主任研究官の永江太郎氏(69)は、不安になった。02年に同館がリニューアルオープンした際に一新し、大幅に増えた説明パネルに、明治から戦時中までの歴史を記述した監修責任者だからだ。
知人の神社職員から「自分たちでは書けないから」と頼まれた。事務局長を務める学術団体「軍事史学会」(会員約1000人)の会員約10人に執筆を分担。英文翻訳の出版社も永江氏が手配し、それぞれ約3カ月の突貫作業だったという。
「すべて米国や中国などの公刊戦史に基づいている」という自信はあったが、「日米関係にひびを入れたくない。重要人物たちの発言だし、誤解から2国間関係に発展することはありうる。放っておけない」と考えた。
産経記事が出た3日後には同館の担当者に面会し、一部の説明に出典を書き加える対策を持ち掛けた。返事はまだ来ないが、靖国神社は9日、毎日新聞の問い合わせに「補強できる点があれば補強することにしている」と答え、準備を認めた。
約49億円で同館を改装・増築した湯沢貞前宮司も7日、テレビ番組で「行き過ぎとの指摘もあり、展示を変えることはあり得る」と述べた。中国、韓国のA級戦犯合祀(ごうし)・首相参拝批判に対する強気と比べ、米国発の批判には反応が敏感だ。
なぜ、中国や韓国の度重なる批判は全く気にもしないのに、米国の要人からひとこと言われただけで、突然手の平を返したように反応が異なるのか?まるで、中国や韓国は日本よりも下、アメリカは日本よりも上とみなしているようではないか。
私はこの遊就館には行ったことがないが、以前どこかのサイトで中国人学生が靖国神社に参拝に行ったところ、たまたまこの遊就館を見学して、そこに飾ってあるパネルなどを見て、怒りに震えたという日本語の作文を読んだことがある。赤旗の「これが靖国神社「遊就館」の実態だ」は遊就館の様子をとても詳しく伝えている。これを読んでみると確かにそこには戦争が美化されており、A級戦犯に指定され処刑された東条英機などの遺影までかざられており、軍国主義に染まった日本が蘇ってくるようだった。遊就館に展示されているパネルは、旧日本軍を美化又は正当化するために作られたものである。
なるほど、これじゃ、アーミテージ元米国務副長官が上の記事で語っているように、遊就館の展示は、米国人や中国人の感情を傷つけるに違いない。日本政府は靖国神社を首相に堂々と参拝させたり、遊就館にこういった展示物を飾ったりしたら、過去の植民地支配や侵略を反省するどころか、正当化していると見られてもしかたがないのだ。
ところが、外務省の「歴史問題Q&A」では、首相が靖国参拝することは、過去の植民地支配と侵略を正当化しようとするものではないと言い切っている。つまり、日本政府は、国をあげて国民を欺き、騙しているのである。
外務省 歴史問題Q&A
Q.6 靖国神社を総理が参拝することは、過去の植民地支配と侵略を正当化しようとするものではないですか。
小泉総理は、靖国神社参拝について、「私の参拝の目的は、明治維新以来の我が国の歴史において、心ならずも、家族を残し、国のために、命を捧げられた方々全体に対して、衷心から追悼を行うことであります。今日の日本の平和と繁栄は多くの戦没者の尊い犠牲の上にあると思います。将来にわたって、平和を守り、二度と悲惨な戦争を起こしてはならないとの不戦の誓いを堅持することが大切であります」と述べており、過去の植民地支配と侵略を正当化しようとするものではないことは明らかです。
なお、小泉総理自身は、2005年8月15日の談話や同年4月22日のアジア・アフリカ首脳会議において、我が国は、かつて植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えたことを謙虚に受け止め、痛切なる反省と心からのお詫びの気持ちを常に心に刻みつつ、第二次世界大戦後一貫して、経済大国になっても軍事大国にはならず、いかなる問題も平和的に解決するとの立場を堅持している旨述べ、我が国の先の大戦に係る歴史認識を国際社会に対して改めて明らかにしています。
「二度と悲惨な戦争を起こしてはならないとの不戦の誓いを堅持することが大切であります」と言いながら、戦争を正当化するためにつくられた靖国神社を参拝することが「過去の植民地支配と侵略を正当化しようとするものではないことは明らか」などととよくもぬけぬけと言えるものだ。本当に二度と戦争を起こしたくなかったら、靖国参拝なんてしないはずだ。
特にこの第2パラグラフの白々しさには脱力を感じる。小泉を見ていると、「アジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えたことを謙虚に受け止め、痛切なる反省と心からのお詫びの気持ちを常に心に刻みつつ」なんて真っ赤な嘘だってほとんどの国民が思っているだろう。「我が国の先の大戦に係る歴史認識を国際社会に対して改めて明らかにしています」だって?もちろん、戦争を正当化する歴史認識のことだよね。ここははっきりと「大戦を偽る歴史認識」と書くべきだろう。
最後に日米の小泉の靖国参拝への批判記事を紹介しよう。
日本の歴史問題、米国専門家も懸念 アジア戦略と対立
2006年04月30日13時38分(Asahi.com すでにリンク先の記事は削除されている)
日本の歴史問題への対応が、日本と中韓両国との関係だけでなく、日米関係にも悪影響を及ぼしかねないとの懸念が米国の日本専門家の間で広がっている。小泉首相が参拝を続けてきた靖国神社が示す歴史観は先の戦争を正当化するもので、日本の戦争責任を認めたうえで成り立つ戦後の国際体制の否定に通じると見ているためだ。日韓や日中の関係悪化は、東アジアの安定を望む米国の国益にそぐわないと考えていることもある。
ジョンズ・ホプキンズ大学ライシャワー東アジア研究所のケント・カルダー所長は「戦争を正当化することは、日本と戦った米国の歴史観と対立する。異なった歴史解釈のうえに安定した同盟は築けない」という。在京米大使館で大使の特別補佐官を務めたこともあるカルダー氏は「多くの米国人が靖国を知るようになると、日米関係の障害となりかねない」と恐れている。
ジョージ・ワシントン大学アジア研究所のマイク・モチヅキ所長も「米国のエリートは概して靖国神社の歴史観には否定的だ。歴史問題が原因で、日本に対する批判的な見方が強まっている」と指摘する。
日本は戦後、国際社会復帰にあたって講和条約で極東国際軍事裁判(東京裁判)を受諾した。靖国神社には、その東京裁判で裁かれた東条英機元首相らA級戦犯も合祀(ごうし)されている。米国の識者らが懸念するのは、首相の参拝が結果的に戦後日本の出発点に反することにならざるを得ない点だ。
ブッシュ大統領が首相の靖国参拝を批判することはなく、国防総省も日本の歴史問題を重視していない。だが外交を担う国務省内には、日米が協力して中国を国際社会のパートナーにしていこうという時に、日中首脳会談もままならない日本に対するいらだちがある。
国務省内の不満について、カルダー氏は「隣国と対話できない日本は、米国にとっても役に立たない。日米同盟が機能するのは、日本がアジアのなかで役割を果たしてこそだ」と解説する。
対米関係に携わってきた日本外務省幹部も「政権の外では日本の歴史問題に対するワシントンの雰囲気は厳しい。今は日米両首脳が蜜月関係にあるから騒がれないが、首相が代われば分からない」と話している。
これを読んでも小泉が国益よりも私的感情を大切にしているというのがよくわかる。日中首脳会談ができないのを中国のせいにしているが、大きな勘違いだ。普通これだけの地位になる人だったら、自分の感情を殺してでも、国益を大切にするのが普通なんだけど、小泉には無理な注文だね。自己中のかたまりで、他国や他人に対する思いやりが全くない小泉にいくら何を言っても「小泉の耳に念仏」だろうけど。こんな恥さらしが5年間も日本の首相だったなんてなさけない。これだけ米国からも非難されているのにまだ参拝するつもりなんだから、こんな奴を総裁にした自民党がいかに低脳団体かというのがよくわかるし、自民党を与党として認め、長い間支持し続けている日本国民にも責任がある。
今では自民党内でも靖国参拝に批判的な意見がでているようだが、民主党の鳩山由紀夫も小泉の参拝自粛を強く求めている。
「国益損なう公約」 首相の靖国参拝で鳩山氏(Kyodo news 2006年08月11日)
民主党の鳩山由紀夫幹事長は11日午後の記者会見で、小泉純一郎首相が8月15日に靖国神社を参拝する意向を示唆していることについて「国益を損なっても公約を守るというのは、国民から見れば不可思議な話だ。あまりにも過去の日本の行為、歴史を軽く見ている」と批判し、参拝を自粛するよう強く求めた。
実際に15日に参拝した場合は「国の内外からとても大きな批判が出るだろう」と強調するとともに、「中国や韓国の主張を聞く方がおかしいというような、偏狭なナショナリズムがわき起こることを懸念する」と述べた。
麻生太郎外相が提唱した靖国神社を「国営化」する私案に関しては「A級戦犯の合祀(ごうし)問題には何も言わないで、特殊法人化すれば解決するとは到底考えられない」と指摘した。
そんなわけで、世界中から注目を浴びている8月15日の小泉の参拝だが、これだけ国内外から靖国参拝について批判をあびても、何も感じないのだろうねぇ、小泉のことだから。
今日は長くなってしまったので、麻生の靖国国営論についての批判は又次回にまわそうと思う。
つづく
参考記事:
米議会演説向け「靖国参拝はノー!」(中央日報2006.05.14 17:38:49 )
【More・・・】
http://plaza.rakuten.co.jp/ukiyo2005/diary/200608130000/- 関連記事
http://www.asahi.com/national/update/0811/TKY200608110434.html
靖国:「戦後」からどこへ/1(その2止) 元華族、電通出身--異色の宮司
http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/gyousei/yasukuni/news/20060806ddm003040076000c.html
朝鮮日報 Chosunilbo (Japanese Edition)
「軍国主義の灯を消すな」 必死にあがく靖国神社(上)
「軍国主義商売」の靖国神社、現在バーゲン中
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/08/14/20060814000021.html
「軍国主義の灯を消すな」 必死にあがく靖国神社(下)
「A級戦犯分祀は税金で靖国神社救済するため」?
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/08/14/20060814000023.html
という視点での解決法はないのですか?
毎日の御健筆ぶり、頭が下がります。
私はアメリカのエリートは共和党であれ民主党であれ、靖国神社が遊就館で展開した歴史観には納得出来ないということは火を見るより明らかと見ていました。現在のアメリカのアイデンティティーの一つには「我々は二十世紀に世界の民主主義陣営を代表してファシズムに勝利した」という一種の信仰があり、靖国の太平洋戦争観はこれに真っ向から異を唱えるものだからです。これは立花隆氏が日経でのページでも伝えていましたが、今回の記事はその続報というべくよくまとまり、読み応えがありました。
また麻生太郎氏の靖国国営化は全く意味をなしていません。国営化(または特殊法人化)して宗教法人の地位を返上したとしても、靖国神社が宗教的施設であることに変わりありません。従ってこれは政教分離の原則を踏み越え、さらには神社神道の再国教化への橋頭堡と利用されかねない危険な提案です。
美爾依様にはこれからも御健筆をふるわれんことを期待しています。
日本国内にいると、アメリカからの靖国参拝批判は報道されないので、今日の記事はわかりやすく情勢が伝わりました。
日本が名誉ある国際的地位を得るためには、何が必要なのかということですね。靖国参拝を取りやめたからといって、中韓のいうことを聴いたわけではありません。
むしろ日本国内でも意見が割れているのですし、
国際世論ということになれば、もっとは反対する人が多くなるということですから。
国連の常任理事国入りを目指すなら、参拝に配慮が必要だということです。
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