2009.09.20 (Sun)
「鳩山政権」TBPのお知らせ
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『鳩山政権TBP』
さすが、kimeraさんは反応が早い。私が承認されたとブログに書く前から、記事をTBしてくださった。
『kimekime25』の「広域的判断を!自公政権のツケをすべて見直せ!そして負担せよ!」
鳩山政権の目指す方向について、冷泉彰彦氏の『from 911/USAレポート』第427回 「鳩山政権はビル・クリントン政権を目指せ」が面白いと思ったので、転載させていただく。
その中で、冷泉氏は、韓国の盧武鉉政権、日本の村山政権など、これまでも「中道左派」から出発した政権があまりにも「左派」カルチャーに染まりすぎて失敗した例をあげながら、(1)最初の立ち位置として「中道左派」のポジションを取り、(2)権謀術数のやり取りを含めて様々な人間の行動パターン、組織の力学などを学び、(3)「アイツで大丈夫か?」という疑問の声の中で謙虚な姿勢で政権をスタートしたクリントン政権を見習えば、意外と成功するのではないかというアドバイスを与えている。
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「鳩山政権はビル・クリントン政権を目指せ」
鳩山政権が誕生しました。中にはこの政変劇を「チェンジ」だからということで、アメリカのオバマ政権と比較する見方もあるようです。ですが、オバマ政権の誕生劇というのは、大変に「激しい」ストーリーです。イラク戦争への厭戦ムードと、金融危機への怒りと不安の中で、アメリカの世論はブッシュ政権に愛想を尽かしていました。またオバマという個人の才能への期待もこれに加わり、世論のうねりは大きなエネルギーとなっていきました。
鳩山政権の誕生劇は、そのまでの「激しさ」はありません。私はむしろ、アメリカの政変劇としては、1993年に就任したビル・クリントン政権の方が、鳩山政権成立の過程に似たものがあるし、このクリントン政権をひとまずは目標とするというのが、日本の民社国連立政権にとっては意味があるのでは、そんな風に思います。
1991年春、サダム・フセインのイラク軍を占領していたクエイトから追い払い、いわゆる湾岸戦争が終結したとき、当時の大統領ジョージ・H・W・ブッシュの人気は最高潮に達しました。ですが、それから一年半後の大統領選で、現職のブッシュはクリントンに敗北したのです。12年続いた共和党政権はここに終わりを告げ、劇的な政権交替が起きました。
問題は経済でした。湾岸戦争が進行する中で、アメリカ経済は厳しい不況に襲われていました。ところが、ブッシュ(父)大統領は「湾岸戦争の勝利」と「冷戦の勝利」ばかりを訴え続けたのです。世論はこれに対して、急速に醒めていきました。軍事外交の成果では「飯が食えぬ」、とにかく景気を良くしてくれ、というのがホンネだったのです。ブッシュ(父)大統領はその意識のズレを埋めることが出来ませんでした。
このプロセスは、格差が問題になりつつあったにも関わらず、憲法改正の準備や教育基本法改正などの「食えない」政策に走ったとして「KY」と言われた安倍政権、目線の高さが目立った福田、麻生政権などが自滅していったプロセスに良く似ています。ところで、ビル・クリントンは就任時点では非常に若かっただけでなく「ベトナム反戦運動の闘士」であるとか、妻のヒラリーは「フェニミズムの闘士」というイメージで見られていました。そんな中、清新さを期待して大統領に選んだものの「統治能力があるのか?」という点については、ずいぶん疑問視されたものです。
例えば、就任した年の5月に大統領として初めて「戦没者慰霊の日」がやってきた時のことです。慣例によって、大統領はアリーントン国立墓地に献花をしなくてはならないのですが、退役軍人会などは「ベトナム反戦運動をやってきた人物が献花なんて飛んでもない」ということで、かなりピリピリしたムードがありました。ですが、クリントンは天性の「スピーチの才能」を生かして、この場を乗り切ったのです。
また93年の就任直後からは、ヒラリー夫人を中心に現在オバマ大統領が苦しんでいる「健康保険改革」に突き進んでいます。これは議会の多数派だった共和党の猛烈な抵抗に遭って挫折しましたが、クリントン夫妻はこの挫折から何かを学んだように見えました。それは、自然体の政治ということです。実はこのあたりから、アメリカの景気は上向いて行ったのですが、当時の財界で良く言われたのは「クリントンは中道左派だが、景気回復の邪魔をするようなことはなかった」と言われています。正に
自然体の政治を行ったのです。
クリントンには運も味方しました。景気回復を邪魔しないどころか、新産業の創出にも成功したのでした。ゴア副大統領が就任当初から「世界中に情報ハイウェーを巡らせる」と言っていたのですが、当時は誰もその意味が分かりませんでした。実はこれはインターネットのことであり、1995年あたりを境に、それまでは軍と大学を中心に細々と電話回線を使ったりして行われていたコンピュータ・ネットワークが大衆化によって、巨大な市場を創出していったのです。その際にも、クリントンはムリはせず、ただ、電子商取引の際の消費税の扱いを簡素化したり、ネットでの言論の自由を保障したりして成長を側面から支援したのでした。
冷戦の終結が、一気に自由主義経済の国際化をもたらすと、金融を中心に国際市場の活性化が進みました。こちらでも、クリントンは国策としてグローバル経済を推進するというよりは、国境のカベをなくす規制緩和などを中心にインフラ整備に取り組み、結果的に国際金融の分野で、アメリカの巨大な覇権を実現していったのです。このITにしても、金融にしても、今ではアメリカの強大な力の源泉であり、他国には脅威であるかのように言われていますが、クリントンは何も「一人勝ちをする」ための戦略を持っていたのではなく、良い意味で「中道左派」であった感覚から、国境とか規制というものを自然に取り除いていった、それがインフラとして機能したということなのだと思います。
勿論、ITバブルはほどなくして崩壊しましたし、オサマ・ビンラディン一派との確執を清算できなかったことは、次のブッシュ政権時代に大きな問題を残すことになりました。行きすぎた金融自由化は、2008年の不動産バブル崩壊の原因と言われても仕方がないでしょう。ですが、クリントンの8年というのは一つの政権としては成功例になる、この点は否定できないと思います。何と言っても、政権の最後の年には財政黒字を達成し、国債の期限前償還までやったのです。
勿論、現在、2009年の世界は1993年よりも複雑化した世界です。経済成長や、付加価値創造に関して「成長という文明の行き詰まり」を感じる人も多くなってきました。その意味で、統治に成功するための条件は厳しくなっているのは間違いありません。質の善し悪し取り混ぜて、情報流通の量とスピードも当時とは比較になりません。
ですが、私は鳩山政権はクリントンの成功を再現できる可能性はあると思います。何よりも理念から出発し、理念と現実の間を緊張感を持ってしかし自然体で現実に向かい合う、そして景気回復の邪魔をしないようにしながら、新産業の立ち上がりを理念の部分から支えてゆく、そんな大きなシナリオとしては、ビル・クリントン政権がお手本になるように思うのです。
クリントン政権と民社国政権の似通った点は、最初の「立ち位置」がやや左ということです。国民新党は日本の政治で言えば保守の位置づけになりますが、大きな政府と管理貿易、死刑制度廃止という政策はどちらかと言えば、アメリカの民主党に酷似していますから、この際「左」に括ってしまうことにします。歴史的に見ると、スタート地点としては「中道やや左」から出発し、そこから現実の統治に当たっては少しずつ中央へ寄っていくというのが成功のパターンとしては多いように思います。逆に
右から出発してというのも、例えばレーガン政権のような成功例がありますが、レーガンの場合は人を見る眼と、人の心をつかむ術に長けているという天才的な資質を持った人でしたら例外と言っても良いかもしれません。
どうして、右からスタートするのが難しいかというと、国粋主義や国家への個人の投影ということ自体に、何かに依存したいという資質、つまりは資質の脆弱が含まれるからです。そうした資質が権力という地位に上り詰めることで磨かれる、権力を得ることで自尊感情を取り戻して現実への対処をクールに出来る可能性は低いからです。一方で、時代にもよりますが国家主義は熱狂を生みます。その熱狂がもたらす期待と、本人の実務能力や自尊心の欠如のギャップは、多くの場合、政権の失敗に直結することになります。本人が限界を悟って身を引けば良いのですが、時として起死回生のギャンブルを行うこともあり、危険きわまりません。
一方で、左からスタートした人間はそれこそ全世界を救済しようという「はち切れんばかりの自尊心」から理念を磨き上げて来ます。勿論、その理念そのままでは現実は動きません、ですが理念が現実に阻まれたときに、現実の感触、現実の複雑さ、一歩引いた時に見える視野の変化などを意識しながら、軌道修正を行うことは可能です。そこで、理念と現実の距離を「政治カン」として持てるならば、現実にすり寄りながらも、判断の一貫性を保つことができるようになります。その何らかの一貫性というものが、自己を強くするばかりか、世論とのコミュニケーションにも一貫性を与えることができるのです。
もっと言えば、元来が「現実にまみれた」中で、利害調整ばかりやってきた人間と比較すると、「左からやってきた人」には、現実を見る上での批判精神があります。その批判精神が、反対のための反対ではなく、建設的な問題の指摘ということにも有効なものであれば、調整型の人間より実務能力で勝ることもあり得るように思います。変革期では余計そうだと思います。
ただ、「中道左派」からスタートした人間が、必ずしも成功するとは限りません。左派という発想は、脆弱の反対で、傲岸とも言えるほどの自信に満ちあふれていることが多いのです。自分が全世界を救済できるという一種の気負いです。その気負いは、全世界を救済しようとしない人間は狭量だとして見下す姿勢ともなりかねません。ですから、最初から世間に喝采を浴び、気負って政権をスタートすると失敗する可能性が強いのです。何らかの理由で清新さを求められて当選しても、実務能力に関してはあまり期待されない、そんな出発の仕方をして、低く構えた姿勢で仕事を始めるのが良いのだと思います。
一つの失敗パターンは、余りにも「左派」カルチャーに染まりすぎているために、現実を見極める情報収集や目標とする着地点自体が現実と乖離した場合です。例えば、韓国の盧武鉉政権、日本の村山政権などは、そのために権力の重さに押しつぶされ、理念と現実の間で活き活きとした緊張感を失っていきました。同じように「左の立ち位置」から出発してもダメな場合もあるようです。
となると、一つの仮説ですが、(1)最初の立ち位置として「中道左派」のポジションを取り、(2)権謀術数のやり取りを含めて様々な人間の行動パターン、組織の力学などを学び、(3)「アイツで大丈夫か?」という疑問の声の中で謙虚な姿勢で政権をスタートする、そうしたパターンというのは意外と大成功する、そんなことが考えられます。その意味で、鳩山政権は、ビル・クリントン政権に「化ける」可能性はあると思います。とにかく景気回復の流れが出てきたら、それを邪魔しないこと、新産業の育成を理念的に支援すること、この二点が何よりも大事です。
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冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家。ニュージャージー州在住。1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大
学大学院(修士)卒。著書に『9・11 あの日からアメリカ人の心はどう変わった
か』『「関係の空気」「場の空気」』『民主党のアメリカ 共和党のアメリカ』など
がある。最新刊『アメリカモデルの終焉』(東洋経済新報社)
( http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4492532536/jmm05-22 )
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『鳩山政権TBP』
半世紀にも及ぶ自民党政権に終止符を打ち、民主党鳩山政権が誕生しました。鳩山政権では、脱官僚依存の政治、国民主権の政治を目指し、国民が中心となって政治家や官僚と一緒に日本の政治を変えていこうではないかという動きが高まっています。悪いところを指摘したり、いいところを褒めたりしながら、みんなで鳩山政権を見守っていきませんか。 鳩山政権について記事を書いたときにトラックバックしてください。
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『kimekime25』の「広域的判断を!自公政権のツケをすべて見直せ!そして負担せよ!」
鳩山政権の目指す方向について、冷泉彰彦氏の『from 911/USAレポート』第427回 「鳩山政権はビル・クリントン政権を目指せ」が面白いと思ったので、転載させていただく。
その中で、冷泉氏は、韓国の盧武鉉政権、日本の村山政権など、これまでも「中道左派」から出発した政権があまりにも「左派」カルチャーに染まりすぎて失敗した例をあげながら、(1)最初の立ち位置として「中道左派」のポジションを取り、(2)権謀術数のやり取りを含めて様々な人間の行動パターン、組織の力学などを学び、(3)「アイツで大丈夫か?」という疑問の声の中で謙虚な姿勢で政権をスタートしたクリントン政権を見習えば、意外と成功するのではないかというアドバイスを与えている。
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『from 911/USAレポート』第427回━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「鳩山政権はビル・クリントン政権を目指せ」
鳩山政権が誕生しました。中にはこの政変劇を「チェンジ」だからということで、アメリカのオバマ政権と比較する見方もあるようです。ですが、オバマ政権の誕生劇というのは、大変に「激しい」ストーリーです。イラク戦争への厭戦ムードと、金融危機への怒りと不安の中で、アメリカの世論はブッシュ政権に愛想を尽かしていました。またオバマという個人の才能への期待もこれに加わり、世論のうねりは大きなエネルギーとなっていきました。
鳩山政権の誕生劇は、そのまでの「激しさ」はありません。私はむしろ、アメリカの政変劇としては、1993年に就任したビル・クリントン政権の方が、鳩山政権成立の過程に似たものがあるし、このクリントン政権をひとまずは目標とするというのが、日本の民社国連立政権にとっては意味があるのでは、そんな風に思います。
1991年春、サダム・フセインのイラク軍を占領していたクエイトから追い払い、いわゆる湾岸戦争が終結したとき、当時の大統領ジョージ・H・W・ブッシュの人気は最高潮に達しました。ですが、それから一年半後の大統領選で、現職のブッシュはクリントンに敗北したのです。12年続いた共和党政権はここに終わりを告げ、劇的な政権交替が起きました。
問題は経済でした。湾岸戦争が進行する中で、アメリカ経済は厳しい不況に襲われていました。ところが、ブッシュ(父)大統領は「湾岸戦争の勝利」と「冷戦の勝利」ばかりを訴え続けたのです。世論はこれに対して、急速に醒めていきました。軍事外交の成果では「飯が食えぬ」、とにかく景気を良くしてくれ、というのがホンネだったのです。ブッシュ(父)大統領はその意識のズレを埋めることが出来ませんでした。
このプロセスは、格差が問題になりつつあったにも関わらず、憲法改正の準備や教育基本法改正などの「食えない」政策に走ったとして「KY」と言われた安倍政権、目線の高さが目立った福田、麻生政権などが自滅していったプロセスに良く似ています。ところで、ビル・クリントンは就任時点では非常に若かっただけでなく「ベトナム反戦運動の闘士」であるとか、妻のヒラリーは「フェニミズムの闘士」というイメージで見られていました。そんな中、清新さを期待して大統領に選んだものの「統治能力があるのか?」という点については、ずいぶん疑問視されたものです。
例えば、就任した年の5月に大統領として初めて「戦没者慰霊の日」がやってきた時のことです。慣例によって、大統領はアリーントン国立墓地に献花をしなくてはならないのですが、退役軍人会などは「ベトナム反戦運動をやってきた人物が献花なんて飛んでもない」ということで、かなりピリピリしたムードがありました。ですが、クリントンは天性の「スピーチの才能」を生かして、この場を乗り切ったのです。
また93年の就任直後からは、ヒラリー夫人を中心に現在オバマ大統領が苦しんでいる「健康保険改革」に突き進んでいます。これは議会の多数派だった共和党の猛烈な抵抗に遭って挫折しましたが、クリントン夫妻はこの挫折から何かを学んだように見えました。それは、自然体の政治ということです。実はこのあたりから、アメリカの景気は上向いて行ったのですが、当時の財界で良く言われたのは「クリントンは中道左派だが、景気回復の邪魔をするようなことはなかった」と言われています。正に
自然体の政治を行ったのです。
クリントンには運も味方しました。景気回復を邪魔しないどころか、新産業の創出にも成功したのでした。ゴア副大統領が就任当初から「世界中に情報ハイウェーを巡らせる」と言っていたのですが、当時は誰もその意味が分かりませんでした。実はこれはインターネットのことであり、1995年あたりを境に、それまでは軍と大学を中心に細々と電話回線を使ったりして行われていたコンピュータ・ネットワークが大衆化によって、巨大な市場を創出していったのです。その際にも、クリントンはムリはせず、ただ、電子商取引の際の消費税の扱いを簡素化したり、ネットでの言論の自由を保障したりして成長を側面から支援したのでした。
冷戦の終結が、一気に自由主義経済の国際化をもたらすと、金融を中心に国際市場の活性化が進みました。こちらでも、クリントンは国策としてグローバル経済を推進するというよりは、国境のカベをなくす規制緩和などを中心にインフラ整備に取り組み、結果的に国際金融の分野で、アメリカの巨大な覇権を実現していったのです。このITにしても、金融にしても、今ではアメリカの強大な力の源泉であり、他国には脅威であるかのように言われていますが、クリントンは何も「一人勝ちをする」ための戦略を持っていたのではなく、良い意味で「中道左派」であった感覚から、国境とか規制というものを自然に取り除いていった、それがインフラとして機能したということなのだと思います。
勿論、ITバブルはほどなくして崩壊しましたし、オサマ・ビンラディン一派との確執を清算できなかったことは、次のブッシュ政権時代に大きな問題を残すことになりました。行きすぎた金融自由化は、2008年の不動産バブル崩壊の原因と言われても仕方がないでしょう。ですが、クリントンの8年というのは一つの政権としては成功例になる、この点は否定できないと思います。何と言っても、政権の最後の年には財政黒字を達成し、国債の期限前償還までやったのです。
勿論、現在、2009年の世界は1993年よりも複雑化した世界です。経済成長や、付加価値創造に関して「成長という文明の行き詰まり」を感じる人も多くなってきました。その意味で、統治に成功するための条件は厳しくなっているのは間違いありません。質の善し悪し取り混ぜて、情報流通の量とスピードも当時とは比較になりません。
ですが、私は鳩山政権はクリントンの成功を再現できる可能性はあると思います。何よりも理念から出発し、理念と現実の間を緊張感を持ってしかし自然体で現実に向かい合う、そして景気回復の邪魔をしないようにしながら、新産業の立ち上がりを理念の部分から支えてゆく、そんな大きなシナリオとしては、ビル・クリントン政権がお手本になるように思うのです。
クリントン政権と民社国政権の似通った点は、最初の「立ち位置」がやや左ということです。国民新党は日本の政治で言えば保守の位置づけになりますが、大きな政府と管理貿易、死刑制度廃止という政策はどちらかと言えば、アメリカの民主党に酷似していますから、この際「左」に括ってしまうことにします。歴史的に見ると、スタート地点としては「中道やや左」から出発し、そこから現実の統治に当たっては少しずつ中央へ寄っていくというのが成功のパターンとしては多いように思います。逆に
右から出発してというのも、例えばレーガン政権のような成功例がありますが、レーガンの場合は人を見る眼と、人の心をつかむ術に長けているという天才的な資質を持った人でしたら例外と言っても良いかもしれません。
どうして、右からスタートするのが難しいかというと、国粋主義や国家への個人の投影ということ自体に、何かに依存したいという資質、つまりは資質の脆弱が含まれるからです。そうした資質が権力という地位に上り詰めることで磨かれる、権力を得ることで自尊感情を取り戻して現実への対処をクールに出来る可能性は低いからです。一方で、時代にもよりますが国家主義は熱狂を生みます。その熱狂がもたらす期待と、本人の実務能力や自尊心の欠如のギャップは、多くの場合、政権の失敗に直結することになります。本人が限界を悟って身を引けば良いのですが、時として起死回生のギャンブルを行うこともあり、危険きわまりません。
一方で、左からスタートした人間はそれこそ全世界を救済しようという「はち切れんばかりの自尊心」から理念を磨き上げて来ます。勿論、その理念そのままでは現実は動きません、ですが理念が現実に阻まれたときに、現実の感触、現実の複雑さ、一歩引いた時に見える視野の変化などを意識しながら、軌道修正を行うことは可能です。そこで、理念と現実の距離を「政治カン」として持てるならば、現実にすり寄りながらも、判断の一貫性を保つことができるようになります。その何らかの一貫性というものが、自己を強くするばかりか、世論とのコミュニケーションにも一貫性を与えることができるのです。
もっと言えば、元来が「現実にまみれた」中で、利害調整ばかりやってきた人間と比較すると、「左からやってきた人」には、現実を見る上での批判精神があります。その批判精神が、反対のための反対ではなく、建設的な問題の指摘ということにも有効なものであれば、調整型の人間より実務能力で勝ることもあり得るように思います。変革期では余計そうだと思います。
ただ、「中道左派」からスタートした人間が、必ずしも成功するとは限りません。左派という発想は、脆弱の反対で、傲岸とも言えるほどの自信に満ちあふれていることが多いのです。自分が全世界を救済できるという一種の気負いです。その気負いは、全世界を救済しようとしない人間は狭量だとして見下す姿勢ともなりかねません。ですから、最初から世間に喝采を浴び、気負って政権をスタートすると失敗する可能性が強いのです。何らかの理由で清新さを求められて当選しても、実務能力に関してはあまり期待されない、そんな出発の仕方をして、低く構えた姿勢で仕事を始めるのが良いのだと思います。
一つの失敗パターンは、余りにも「左派」カルチャーに染まりすぎているために、現実を見極める情報収集や目標とする着地点自体が現実と乖離した場合です。例えば、韓国の盧武鉉政権、日本の村山政権などは、そのために権力の重さに押しつぶされ、理念と現実の間で活き活きとした緊張感を失っていきました。同じように「左の立ち位置」から出発してもダメな場合もあるようです。
となると、一つの仮説ですが、(1)最初の立ち位置として「中道左派」のポジションを取り、(2)権謀術数のやり取りを含めて様々な人間の行動パターン、組織の力学などを学び、(3)「アイツで大丈夫か?」という疑問の声の中で謙虚な姿勢で政権をスタートする、そうしたパターンというのは意外と大成功する、そんなことが考えられます。その意味で、鳩山政権は、ビル・クリントン政権に「化ける」可能性はあると思います。とにかく景気回復の流れが出てきたら、それを邪魔しないこと、新産業の育成を理念的に支援すること、この二点が何よりも大事です。
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冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家。ニュージャージー州在住。1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大
学大学院(修士)卒。著書に『9・11 あの日からアメリカ人の心はどう変わった
か』『「関係の空気」「場の空気」』『民主党のアメリカ 共和党のアメリカ』など
がある。最新刊『アメリカモデルの終焉』(東洋経済新報社)
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tororon |
2009.09.21(月) 12:43 | URL |
【編集】
フライングですみません!
ウチのサイドバーには
もう「鳩山政権」は貼り付けてあります。
鳩山は中道右派と思うけども・・・。
ウチのサイドバーには
もう「鳩山政権」は貼り付けてあります。
鳩山は中道右派と思うけども・・・。
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上関町長島での原発建設計画を巡り、埋め立て工事の着手を目指す中国電力と同町祝島の漁民らとのにらみ合いは11日も8時間半にわたって続いた。灯浮標(ブイ)が置いてある平生町田
2009/09/22(火) 06:41:48 | 春 夏 秋 冬
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2009/09/21(月) 00:55:30 | 木霊の宿る町
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「マニフェストは公約じゃありません」宣言することだと思います。
国民は変化を求めたのであって、正直民主党の経済対策(あれば)を支持したのではありません。マニフェストの修正は早いほど受け入れやすいです。
オバマの人気も就任半年で落ち着きましたが、鳩山はどこまで
持ちこたえますかね?
正直この政権はまだ発足したばかりで、スローガンばかりが目立ちます。具体的な方法論に関しては国民に説明していません。
長妻さんが「後期高齢者医療制度」を廃止するといってきたが、
未だ新しい制度についてのなんの説明がない。
日本の有権者がそんな長い目で見守るかどうか。
それとクリントンはたまに保守層の心に響くことを演説のなかで
取り入れてたのが良かったと思います。
民主党には保守の人もいるのでうまくバランスをとればと思います。