2011.09.06 (Tue)
藤岡惇教授の論文「福島で進行中の核の大惨事をどう見るか」
『経済科学通信』126号、2011年9月に掲載予定の論文だそうだが、地球が誕生したときから現在に至るまでの核の姿を歴史的、科学的、経済的観点から分析し、壮大なスケールでかかれた論文だ。広島の原爆、スリーマイル島での原発事故やチェルノブイリ原発事故によって放出された放射能量を福島原発の放射能量の比較も参考になった。
副題の「双頭の天龍」とは、二つの核のことで、一つは「核の暴龍」ともいうべき「核爆弾」のこと。もう一つは、「核の妖龍」ともいうべき「原子力発電」のことだ。本来は、天体においてのみ存在した核反応を地球生命圏に持ち込んだことによって、人類にとっての危機が始まる。長文だが、よくまとまっているので理解しやすい。今の日本人には、必読の論文だ。
ただ残念なのは、福島第一原発の現状を描くのに朝日新聞や日本経済新聞など、原子力推進派企業の情報を鵜呑みにして使っていること。たとえば、次のくだりだ。
半ば溶融した2000トンの核燃料をどうするか
福島第一の各原子炉の底には、合計2000トンという重さの核燃料からなる「妖龍」が半ば溶融した姿で、とぐろをまいている。この妖龍を暴発させないために、こんご数十年にわたって、大量の冷却水を注入しつづける必要があるだろう。
実際、核燃料は半ばではなく、完全に溶融している。原子炉の底を突き破り、核燃料が地下水と接触して水蒸気となって噴出している可能性のある現状では、小出教授もよく言われているように冷却水は何の役にも立たない。
また、先日のガンダーセン氏の動画にもあったとおり、核燃料が原子炉外に飛散している可能性もあり、原子炉外の大気と冷却水とに放出された放射能量が貯蔵核燃料の放射能総量の0.2%がにすぎないというのは、少なすぎると思う。放射能放出規模もチェルノブイリを超えているはずであり、三分の一のレベルにしか達していないというのは疑わしい。
福島で進行中の核の大惨事をどう見るか
――「双頭の天龍」を地球生命圏に降下させた危険を見据えよう
藤岡 惇
はじめに
今夏で17回目になるが、アメリカン大学のピータ・カズニック教授をリーダーとする17名の米国人グループ、アジア諸国からの7名の国際学生、16名の日本の学生とともに、広島・長崎をめぐる「平和巡礼の旅」をしてきた。11日間の旅のなかで「フクシマの核惨事とヒロシマ・ナガサキの関係」について、繰り返し討論した。カナダ側コーディネイタと通訳を務めていただいた乗松聡子さん、後藤宣代さんに紹介していただいた福島県立医科大学の2人の学生さんには、この問題を討議するにあたって特別の役割を果たしていただいた。
その中で痛感したことは、今は亡き高木仁三郎さん(原子力資料情報室)の指摘の先見性である。チェルノブイリの核惨事は1986年4月23日に起こったが、その直後の段階で高木さんは、次のように書いておられた。「核技術というのは、いわば天上の技術を地上において手にしたに等しい。・・・核反応という、天体においてのみ存在し、地上の自然の中には実質上存在しなかった自然現象を、地上で利用することの意味は・・・深刻である。あらゆる生命にとって、放射線は、それにたいしてまったく防御の備えのない脅威であり、放射線は地上の生命の営みの原理を撹乱する異物である。私たちの地上の世界は、生物界も含めて基本的に化学物質によって構成され・・・この循環は、基本的に化学物質の結合と分解といった化学過程の範囲で成り立っている。・・・核文明は、そのように破滅の一瞬を、いつも時限爆弾のように、その胎内に宿しながら、存在している。この危機は・・・これまでのものとまったく異質のものではないだろうか。そして今、その時限装置がカチカチと時を刻む音が、いよいよ大きく、私たちの耳に入ってこないだろうか」と(高木仁三郎『チェルノブイリ原発事故 新装版』1986年、七つ森書館)。
25年前の高木さんの警告にもかかわらず、また広島・長崎での被爆の深刻な体験にもかかわらず、時限装置の時を刻む音を聴き取る力を国民的規模で広げることに、私たちは失敗してきた。その背景のもとで不幸にして、2011年3月11日が来てしまった。今回の破局的な事態が、社会科学研究にいかなる課題を提起しているのかを考えてみたい。
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2010.02.24 (Wed)
鯨肉「土産」の矛盾と調査捕鯨の不正隠ぺい
山道の狭い道だったので、一歩間違えたら崖の下に真っ逆さまに落ちていただろうけど、運よくその車は、かすり傷一つなく、手で合図しながら、すまなそうに目でわびながら、走り去っていった。こちらとしても、相手の車が故意にぶつかろうと思って向かってきたのではないことはわかっていたので、ぶつかりそうになった瞬間は怖い思いはしたけれども、しょうがないなという気持ちで許せた。
私の場合とは違って、一方が故意にぶつかってきたせいだろうと思うけど、このところ、どっちがぶつかってきたといってしょっちゅうもめているシーシェパードと日本の捕鯨船だが、オーストラリアを訪問した岡田外務大臣とオーストラリアのラッド首相やスミス外相と会談でもその内容は、捕鯨に関する事項に終始したそうだ。
オーストラリア側は、なんとか日本の捕鯨を廃止したい意向であり、国際捕鯨委員会(IWC)で解決できない場合は、国際司法裁判所への提訴も辞さない構えを示している。これに対して政権が変わっても、官僚にいまだに支配され続けている民主党の閣僚は、農水省に言われるがままに捕鯨の維持を主張し、日豪首脳の話し合いも平行線に終わっている。官僚に取り入られている上に外交下手な岡田外相が日豪関係を悪化させる可能性もある。
話は、少し変わるけど、あれからすでに1年以上もたって、すっかり記憶から遠のいていたグリーンピース・ジャパンの職員、佐藤潤一氏と鈴木徹氏が告発した鯨肉横領事件の初公判が2月15日にあったそうだ。
クジラ肉裁判初公判
「土産」の矛盾と調査捕鯨の不正隠ぺいが明るみに
【2月15日 青森】本日、青森地方裁判所でグリーンピース・ジャパンの佐藤潤一と鈴木徹に対するクジラ肉裁判(注1)の初公判が開かれました。
本日のスケジュールは以下の通り――
罪状認否:グリーンピース・ジャパンの佐藤と鈴木のスピーチ、それぞれ5分間(注2)
検察官と弁護団の冒頭陳述
検察官と弁護側請求証拠の取り調べ
証人尋問(運送会社の責任者):被害者とされるクジラ肉入りダンボール箱の配送業者
証人尋問(共同船舶):「調査捕鯨」を実施している傭船会社のクジラ肉販売担当幹部
主任弁護人の海渡雄一弁護士は初公判を終えて、「クジラ肉横領の不正な慣行が浮き彫りになった。今日の証人は矛盾だらけであり、今後行う日新丸乗組員たちの尋問で、さらに横領の実態が明らかにされるだろう」と感想を述べました。また弁護団の日隅一雄弁護士は、「本日の尋問で共同船舶の幹部が、日新丸船上において乗組員らが自室に塩を持ち込み、私用のために塩蔵鯨肉を作っていることを認めた。さらに、どのくらいの量を各自が作っているのか監督するシステムもないという証言が得られたのは、クジラ肉横領を明らかにする大きな一歩となる」と語りました。
次回は、3月8日から11日まで4日間の連続開廷となります。3月8日は午後2時から開廷。
(注1)クジラ肉裁判:2008年グリーンピース・ジャパンの職員、佐藤潤一と鈴木徹が調査捕鯨におけるクジラ肉の横領疑惑を追及する中で、公的機関に告発するために横流しの証拠としてダンボール箱入りのクジラ肉を確保したことにより、同年7月11日に窃盗・建造物侵入罪で青森地裁に起訴された事件の裁判。
(注2)佐藤と鈴木の5分間スピーチはウェブでご覧いただけます。
佐藤潤一、鈴木徹のスピーチ
枝野行政刷新相が、行政刷新会議による事業仕分け第2弾に向けて、仕分け対象となる独立行政法人と公益法人の問題点を、ウェブ上で広く一般から募集するそうだ。意見の募集は、ウェブサイト「ハトミミ.com」で23日から1か月間行われるそうなので、ぜひ、(財)日本鯨類研究所を仕分け対象にして欲しい。
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